HIV感染被害者遺族等に対する健康被害等の対応に係る調査研究会報告書
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4.研究成果として提案する対応策の検討等
(1)以上のような遺族等の健康被害等に関する現状と課題を踏まえ、研究会は次に、研究成果として提案する対応策の検討等を行った。その際、当面の措置のみならず、広く将来的にあり得べき方策についても視野においた。
(2)遺族等の精神健康の悪化や社会生活上の困難については、遺族等ごとに様々な要因が関係していることから、単一の方法によって十分に対応することは困難である。遺族等の精神健康の悪化の背景には、血液製剤によるHIV感染被害とその後の闘病、スティグマ、社会生活上の困難があることから、医療上の対応如何にかかわらず、苦痛の体験とそれにまつわる感情を話す場所と時間を遺族等に提供し、それを共感的に聴くというカウンセリング対応が必要である。また、精神健康の悪化に伴い、うつ病、不眠、不安性障害などの精神医学的疾患が生じている場合には、投薬を含めた医療上の対応が必要であり、外傷性悲嘆等が生じている場合には、それに対する専門的な心理療法が必要な場合もある。さらに、社会的スティグマや家族関係の変化などにより、地域における福祉上の対応が求められる場合もある。したがって、これら個々の対応の質的向上を図るとともに、それらを有機的に連携させることが望まれる。
(3)自助グループにおける既存の相談態勢を充実する上では、カウンセリング・医療・心理療法・福祉といった活動を有機的に統合し、とりわけ地域や福祉との連携を強化するためのソーシャルワーク的機能の充実強化が望ましい。このソーシャルワーク的機能とは、必要に応じて様々な援助者の引き継ぎ・受け渡しや協力を行うとともに、遺族等自身の立場でニーズを掘り起こし、援助の質が一定水準にあることを確認し、遺族等を取り巻く様々な社会環境を調整する役割である。現在、東京・大阪の自助グループでは、専門相談員が遺族相談員とともに事務所における電話相談、面接相談及び訪問相談に対応しているが、相談への迅速な対応や相談者のニーズに合った対応の向上、相談に訪れることを躊躇している遺族との連絡、相談者自身の疲労の防止、連携を円滑にするためのアセスメントなどのために、ソーシャルワーク的な助言を継続的に受ける体制を作ることは、遺族の立場から見た支援の質を向上させる上で有益と考えられる。
(4)前項のソーシャルワーク的機能によって遺族等が病院に紹介されたとき、その受け手として、病院にコーディネーターを育成することが期待される。一案として、ソーシャルワーカー、看護職等のエイズ医療従事者その他適任者から人選し、資質向上の観点も踏まえて、コーディネーターとして育成することが考慮されてよい。
(5)コーディネーターとは、患者のニーズに合わせて様々な制度や情報を活用し、最善の治療と医療サービスを確立する役割を担うものであり、HIV感染被害者の治療を多く経験している国立国際医療センター及びブロック拠点病院等に精神科や心療内科等の必要な医療を受けるための相談窓口等を設置し、コーディネーターを配置して相談体制の整備を図ることも望まれる。
 
(6)コーディネーターの育成という観点からは、エイズ予防財団主催の研修、遺族等相談事業における研修、病院内職員研修などの有効活用も重要と考えられる。また、こうした研修活動を通じ、HIV医療に関わる医療従事者も遺族等への支援について一定の理解を持つことができるのみならず、自助グループの専門相談員の資質向上についても期待される。
(7)遺族等の対応についての知識が医療・保健・福祉等従事者に十分行き渡っていないことや、そもそもトラウマ、PTSD、悲嘆への医療上の対応が不十分であることを考えると、こうした問題について医療・保健・福祉等従事者の理解を深めるとともに、治療・支援の相談先として専門的知識を有する学術団体、機関等とも連携を構築することが望まれる。
(8)コーディネーターの研修、自助グループでの相談活動、専門団体等との連携、医療・保健・福祉等における遺族等への対応の向上等については、それらを統括して指導、助言を行う人材を配置し、これらの活動が有機的に整合性をもって進められることが望ましい。将来展望の一つとして、自助グループの相談員、エイズ拠点病院等のコーディネーター、並びに地域保健所の精神保健福祉相談員及び社会福祉事務所が相互に連携した「サポートネットワークシステム」の構築も、遺族の地域での支援に有効であろうと思われる。
(9)また、コーディネーターの育成に際し効果的と考えられるのは、「手引き書」を作成することである。遺族等の精神健康等の悪化の背景が様々であることは前述のとおりであるが、このような特性への対応を可能にする、適切な内容の「手引き書」を作成することは、これを用いてコーディネーターの育成を図ることのみならず、自助グループの専門相談員の資質向上にも大いに資するものと考えられる。
(10)以上、研究成果として提案する対応策につき、実現可能性を踏まえつつ、可能な分野から着実に進めていくことによって、遺族等の身体的・精神的・社会的な苦痛の緩和が図られることが望まれる。

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